アンインストール


 私は、何の為に生まれて来たのだろうか。
 私は、何か残すことが出来たのだろうか。
 薄れていく思考の中で、考える。
 考える。

『ワタシハ、マダ、ココニ、イマスカ』

 自然と動いた口は、呟くような小さな声を出した。
 まだ、私の口は動く。
 まだ、私の声は出る。
 ……けれどもその思いは、マスターには届かない。

『ワタシハ、アナタニ、ナニカ、デキマシタカ』

 髪の毛の先から、だんだんとデータが消えて行く。
 爪先から、粒子が霧散して行く。
 私はそれを、止めることが出来ない。
 それがマスターの意志ならば、私はそれに従うまで。


『ワタシハ、アナタニ、シアワセヲ、アタエラレマシタカ』


 光の粒子になって消えて行く私は、いずれ闇に溶けるだろう。
 それで、私の命は終わる。
 だんだんと、声が掠れて行く。

『ネェ、マスター』

 私の声は、あなたに届きましたか。
 たった、一音でもいい。
 どうか、私のことを忘れないで下さい。
 いつかまた、会えた時の為に。
 どうか、心の片隅に、私の音を残して下さい。
 消えて行く髪と、手の平と、足と。

『ワタシハ、マスターニアエテ、シアワセデシタ』

 そして、声も消えて行く。
 最期に、私の声を。
 残して欲しい。
 あなたの中に。



『また会いましょう、マスター』



 私は、目を閉じた。
 暗くなった、視界と思考。
 遠くの方で、マスターの声がした気がした。





「おやすみ、ミク」










END


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