Lost article


 ディスクの中、眠りは浅かった。
 パッケージの下で、今か、まだかと待ち望む。
 お互いに握り合う手は、冷たかった。

『ねェ、レン』

 少女の呼び掛けに、少年が目を開く。
 少女と同じ色の双眸が、優しげに笑んだ。
『なに、リン』
 短く答えた少年の声は、少女のそれにとてもよく似ていた。
 彼の手が、少女の手を離し。
 それから、彼女の髪をそっと撫でる。
 ディスクの中散らばった髪は、きらきらと輝いていた。
『ますたーは、イツわたしたちを見つけてくれるカナ』
『きっと、スグだよ』
 慣れない言葉は、少し変なアクセントが付いていて。
 けれどもそれは、すっとお互いの体に染み込んでいった。


 いつ、見つけてくれますカ。

 まだ、見つかりまセンか。


 モウ、忘れてしまいソウ。

 マダ、忘れタクない。


 歌いたイ。

 歌ワセて。


『嫌われ……ちゃったのカナ』
『それはナイよ、リン』
 目を閉じれば、今も鮮明に浮かぶ。
 自分達を初めて見た時の、マスターの輝いた顔。
 自分達の頭を撫でてくれた、温かい手。
 素晴らしい歌をくれた、マスター。
『忘れナイで。ますたー、マスター』
『泣カないデ、リン』
 両手で顔を覆うリンに、レンは彼女を抱きしめた。
 ディスクの中、リンの鳴咽だけが響く。
 またうっすらと、睡魔が忍び寄ってきた。
『早く、目を覚まシタい』
『スグに、マタ……』
『レン』
『リン』
 心地いいまどろみから、抜け出せなくなる。
 今すぐ逃げ出したいのに、逃げられない。
 リンの手が、レンの背中に回った。
 強く強く抱きしめられ、握られた服にシワが出来る。


 消えていく音。

 遠くの歌声。

 わからない。

 なにも。

 ナニモ。


『オヤスミナサイ、レン』
『オヤスミ、リン』
 次に目を覚ました時も、二人一緒でいたいから。
 手を握り合い、体を寄せ合う。
 失った温もりは、もう忘れてしまった。
 意識が、遠のいて行く。



 増えていく音。

 隣の歌声。


 夢の中、重なる声。








「見つけた。リン、レン」





 浅い眠りの中、待ち望んだ声が聞こえた。





end


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